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雨音と共に

読んだ本の感想などを書き綴っていくブログです

眠りの牢獄

斬新な物語構成で私の心を鷲掴みした『究極の純愛小説を、君に』という小説がございます。その1冊を読んだだけで、作者の浦賀和宏さんに興味が湧きました。

その小説に関しては後日ゆっくりご紹介するとしまして、今回は『眠りの牢獄』をご紹介します。こちらも大変興味深い作品でした。

 

眠りの牢獄 (講談社文庫)

眠りの牢獄 (講談社文庫)

 

 

 

初めに

本作を読み終えたときの心境としては

 

放心

 

の2文字が適切でしょう。

誤解していただきたくないのですが、物語が理解できずに終わってしまい「どういうことだったんだ…?」という意味で放心しているのではありません。

むしろ納得の結末を迎えたにも関わらず、放心しているのです。

イメージとしては「メリーゴーランドに乗っていたはずなのに、急にジェットコースターに変化した」といったところでしょうか。初めからジェットコースターに乗っていればゴールで降りるときには楽しかった、と口にすることができるのかもしれません。しかし、メリーゴーランドの馬が突然、急降下し、縦横無尽にレールの上を駆け巡った後、ゴールに到着したとしたら、どんな気分になるでしょうか。

私はただただ放心しておりました。改めて読み返してみるとこの本はメリーゴーランドではなくジェットコースターであったということを理解することができます。

さすが浦賀和宏先生、と思わず口にしてしまいました。

 

 

あらすじ

浦賀の恋人、亜矢子は階段から落ちてしまい、意識不明の昏睡状態になってしまいます。その事件から5年。友人である北澤と吉野、そして浦賀の3人は亜矢子の兄に呼び出され、地下室に閉じ込められます。ここから出る条件は「誰が亜矢子を突き落としたのか」という答えを出すこと。そして外の世界で計画される交換殺人の真意とは。

 

 

ネタバレなし感想

まだこの作品を読んだことがない方がもしこの記事をご覧になっているのであれば、是非気構えずに、推理しようと思わずに読んでいただきたいと思います。推理をし、結末が見えたとしても、おそらくその2つ上、3つ上を行く結末になっているからです。

先の展開を読もうとせず、今読んでいる一文について自分がどう思ったかだけを考えて読むほうが楽しめるかと思います。これは本作に限ったことではありません。読了後にどう感じたか、それが重要なのだと考えます。ちなみに私は先の展開を推理しようとしても全く当たらないので、どちらにしても楽しめる得な性格をしています。(自慢するようなことではありませんが)

この物語の論点は「誰が亜矢子を突き落としたのか」ですが、終盤に近付くにつれてその論点が変化していきます。この変化の仕方がジェットコースター並みであり、そして綺麗に着地するので放心状態になってしまうのです。こう書いてしまうと何が起こるのか気になって仕方なくなってしまうかもしれませんが、本作を読む時は諦めて怒涛の展開に身を委ねてしまいましょう。

 

 

ネタバレあり感想

ここからはネタバレありで話を進めていきます。解説のようなことができればと思います。未読の方はこの先をご覧にならないほうが良いでしょう。

 

 

この小説はプロローグに浦賀と亜矢子が階段から突き落とされるシーンから始まります。その後、亜矢子に読ませるために書いた小説であると断り、『かつていたところ』というタイトルで物語が始まります。

 

この小説が急展開を迎えたのは17章に入ってすぐのことです。地下室に閉じ込められた3人のうち、北澤が首を吊って亡くなります。亜矢子を突き落としたのは自分である、という遺言が残っていたので2人は北澤が責任を取って自殺したのだと考えました。

メリーゴーランドの馬が急降下を始めたのは終盤に浦賀が訴えたこの一文からでした。

 

「この家の住人に――新堂太一にここに閉じ込められたんです」(p.163)

 

亜矢子の兄、新堂太一は沙羅子をレイプした男だったのです。

ここで地下室に閉じ込められた人達と、交換殺人を企てる2人の女性に初めて接点ができます。これまで別々の問題だと思っていたことが繋がり始めるのです。

さらに18章の初めには冴子の元カレである博の名字が登場します。

 

北澤博は、悩み多き男だった。(p.167)

 

ここまでくると地下室と交換殺人が別々の問題であると考えるのは難しいでしょう。浦賀目線では北澤、吉野、兄と名前の出てこない人達ばかりで、冴子目線では博と名字の出てこない人達ばかりでした。実は私はこれには気付いていたので、地下室の人達と交換殺人の人達は何かしらの関係があるのだろうと推理しておりました。ですが、先ほどにも書かせていただきましたが、私の推理能力というのはその程度なのです。

北澤博は鶸千路沙羅子を騙り、交換殺人の話を冴子に持ち掛けて新堂太一を殺し、冴子を逮捕させることで社会的に抹殺する計画を企てます。動機は遺産目当てです。浦賀、北澤、吉野は新堂に呼び出されて地下室に閉じ込められた、という展開は冴子が新堂を殺したときに自分自身を監禁状態にしておくためのアリバイ作りのために行ったことなのです。

 

ということが判明したところで、もう一段階、急降下します。

突然、ここまでの出来事を小説に書き起こしたかのような書き方をし始めます。その文章を書いているのは浦賀。そして19章に移ってから物語はさらに加速します。

 

浦賀は吉野の所へ行き、北澤を殺したのはお前だ、と言い始めます。そしてそれは様々な証拠により、真実であることが判明します。これだけでもかなりな衝撃なのですが、追い打ちをかけるように5年前に亜矢子を突き落としたのは吉野であることも判明します。そしてその理由が――これがおそらく最大のどんでん返しであると思う方もいらっしゃるかもしれません。

 

吉野は浦賀のことが好きだった。そして5年前のあの晩、浦賀は亜矢子を抱いた。その光景を目撃してしまった。

 

女同士で交わっている異常な光景を。

 

その光景を見た吉野は嫉妬に狂い、亜矢子を突き飛ばしました。

浦賀女性でした。僕という一人称を使っていましたが、このことと著者である浦賀和宏さんが男性であることがミスリードでした。その晩、吉野は浦賀をレイプし、浦賀は吉野を殺します。そしてここまで書いた小説を抱きしめ、浦賀は自宅の屋上から飛び降ります。

 

 

と、ここまでが小説の内容です。ここでいう「小説」とは本作、『眠りの牢獄』のことではありません。初めにタイトル付けた『かつていたところ』というタイトルの小説です。

これが個人的には最大のどんでん返しでした。初めに提示された『かつていたところ』というタイトルの小説のことなど忘れてしまっていますが、その初めにはしっかりと「亜矢子に読ませるための小説」と書かれているので、何も問題ないのです。

最後の展開としては亜矢子が目覚め、浦賀が昏睡状態になるという初めとは逆の展開になります。浦賀は亜矢子と同じ昏睡状態になろうとして飛び降りたのでした。

 

結局物語は何回転したのでしょうね。

主観ですが

1:亜矢子の兄が新堂太一だった

2:北澤が博であり、沙羅子だった

3:地下室の計画は北澤が首謀者だった

4:北澤殺しの犯人、亜矢子を突き落とした犯人は吉野だった

5:浦賀は女性だった

6:この話は全て小説に書かれていたことだった

 

少なくとも6回転はしています。回転という表現もどうかと思いますが。

そしてさらにすごいのはこれだけのどんでん返しの展開をわずか240ページの間で完結させたということです。伏線の張り方も見事でした。

1点だけ、個人的にどうかなと思った点としては、女性の一人称が「」である点です。現実に100%いないとは言えませんが、かなり少数派なのでこれを良しとするかどうかで多少は揉めそうですね。しかし、浦賀女性であることの裏付けができそうな描写というのは作中にいくつか出てきており、またもし浦賀が女性であるという事実に関してアンフェアである、という結論を出したとしても、それを差し引いてもこの作品は素晴らしいものであることは間違いありません。

 

久々にどんでん返しの快感を味わうことができました。本当の快感を味わえた時はやはり放心してしまうものなのです。これがあるから小説を読むことはやめられないですね。