雨音と共に

読んだ本の感想などを書き綴っていくブログです

僕が愛したすべての君へ 君を愛したひとりの僕へ —ネタバレあり—

2冊同時刊行の本ということで、ネタバレありの記事では2冊の感想を同時に書いてみたいと思います。

 

 

 

  

初めに

個人的に、ネタバレなしの感想というのは難しく感じます。面白ければ面白いほどその本の素晴らしさを伝えたいという気持ちが昂るのですが、ネタバレや結末を言わずに魅力を語らなければならないため「本当にこの素晴らしさが伝わっているのだろうか」と不安になるためです。

また、ネタバレしたい気持ちを抑え込みながら、どこまでなら書いても良いかという線引きを誤らないよう気を配っているため、うずうずして仕方ないというのも理由の1つになります。

 

つまり、何が言いたいかといいますと、ネタバレありの感想ではその気持ちを抑え込む必要がなくなるので、堂々と素直な感想が書けるということです。

なので、必ず作品をお読みになってからこの記事をご覧になっていただきたいと思います。

 

 

『君愛』から先に読むことを推奨する理由

基本的にこの作品はどちらから読んでも良いとされていますが、あえて私はおすすめする順番を提示します。

個人的には『君愛』がメインストーリー『僕愛』がサブストーリーであると考えております。

実は『僕愛』のプロローグとエピローグは『君愛』の物語のエンディングになっています。これを踏まえて『僕愛』から読むとどうなるか考えてみましょう。

そうです。メインストーリーである『君愛』のエンディングから読んでしまうことになるのです。当然ながら『僕愛』を読んでいる読者はその物語の始まり、そして終わりであると思い込んでしまいます。さらに、『僕愛』だけではプロローグもエピローグも理解できず、多くの謎を残したまま読み終わることになります。

しかし、『君愛』の最後は時間移動する暦の描写が書かれており、「これからどうなるのか?」という好奇心を抱えて読み終わることができます。

 

つまり「どちらから読んでも良い」というのは

 

『僕愛』から読めば『君愛』を読むことで謎が解ける

『君愛』から読めば『僕愛』を読むことで続きが読める

 

というようにそれぞれ読み終わった後のもう片方に託すものが変わる、ということなのだと考えます。

『君愛』から読むことをおすすめする理由は『僕愛』を読み終えたときに、ストーリーが綺麗に着地して欲しいからなのです。もちろん、『僕愛』から読んだ場合は不鮮明だった事柄が明らかになる瞬間があり、驚く場面はあるのですが、その衝撃とストーリーが着地する瞬間を比べるとやはり綺麗に着地したほうが楽しめるのではないかと思います。

 

すでにこの記事をご覧になっている方は2冊とも読み終えた方だと思うので、今さら読む順番について語らなくてもとは思ったのですが、もし周りにこの本に興味のある方がいらっしゃいましたら『君愛』から読むことをおすすめしていただきたく思います。

 

 

時系列

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説明を簡単にしている部分もありますが、大まかな流れはこの表をご覧になることで掴めるかと思います。絶対に合っている自信はございません。

赤文字で書かれている部分が『僕愛』の主人公、高崎暦の行動であり、青文字で書かれている部分が『君愛』の主人公、日高暦の行動です。表の列は世界を表しているため、並行移動による精神交換が起きた場合、赤文字と青文字が反転します。

少年期、瀧川和音と出会って友達も出来始めて楽しい高校生活を送っている高崎暦が居た反面、別の並行世界では愛する人を失い、助けるために高校を中退して研究に没頭する日高暦が居たのですね。

最後の部分だけ黒文字ですが、これは高崎暦の虚質に日高暦の虚質が融合しているためです。日高暦は時間移動する並行世界に『僕愛』の高崎暦の世界を選びました。そして高崎暦の虚質に佐藤栞の虚質の一部が融合した自らの虚質を融合させることで自分と栞が出会わなく、栞が幸せになる世界を再構築したのです。『僕愛』のプロローグで突然、目の前の女の子が消え、IEPPがエラーを起こすのは日高暦の虚質が融合したからなのです。

 

Steins;Gate』で例えるならば、独立した世界線「シュタインズ・ゲート」へ到達した、といったところでしょうか。やはり似ていますね、この2作。

 

 

タイトルについて

僕が愛したすべての君へ

君を愛したひとりの僕へ

 

久しぶりにタイトルが気に入った作品でした。当然かもしれませんが、本のタイトルは内容に密接に関わっていると考えています。

予想として、初めに「~へ」という言葉を用いているため、何か伝えたい言葉が続くのではないかと考えました。

そして、それぞれの『僕』はそれぞれの暦のことを指しており、それぞれの『君』はそれぞれのヒロイン、和音と栞を指しているのだと考えました。

 

最終的に2つの予想は半分ずつ当たっていると結論付けました。

それぞれのタイトルの言葉はそれぞれの作品のエピローグに登場しておりました。

 

「そして、君だよ和音。僕が愛したすべての君へ、この喜びを伝えたいんだ。君がいてくれたから、僕は今、こんなに幸せですって。」(『僕愛』p.251)

 

「和音を愛した一人の『僕』へ、栞との大切な約束を託して。」(『君愛』p.251)

 

なんと同じページ番号にタイトルのような言葉が書かれていました。

『僕愛』はタイトル通りの言葉ですが、『君愛』は少々変わっております。

『僕愛』は感謝の言葉を繋ぎ、『君愛』は約束を託しました。

 

僕が愛したすべての君へ、この喜びを伝えたい。

君を愛したひとりの僕へ、大切な約束を託す。

 

このような言葉になります。

そして『君』はそれぞれのヒロインではなく、どちらも和音のことを指していたのでした。

和音を愛したひとりの僕、つまり高崎暦へ、栞と再会するという約束を託す。

こうして見ると、やはり『君愛』は『僕愛』に続く物語である、ということがわかりますね。

 

 

総合的な感想

久々の表紙買いだったのですが、大当たりでした。カバーイラストがとても綺麗なので眺めているだけでも楽しむことができます。

2冊同時刊行によりお互いがお互いを支え合って1つの物語を紡いでいく斬新な構成に心が震えました。日高暦の佐藤栞に対する決して揺れることのない一途な愛と、高崎暦の瀧川和音のすべての可能性に対する愛。どちらの愛も美しく、そしてとても強い気持ちを感じました。また、『僕愛』のエピローグを読み、改めて幸せというものを考え直すきっかけになりました。

乙野四方字さんの作品は本作が初でしたが、他の作品にも興味が湧いてきました。機会があり、読むことになった際はまた感想を書きたいと思っております。